• 景気回復期における地域格差


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    • Abstract: 企業統計調査」のデータを用いて、景気回復期における各地域の従業者数、事. 業所数の動向を検討すること目的としている。 雇用情勢の地域間格差については、いくつかの研究が行われてきた(岩本. 2002、勇上2004、周 ... 過去の経験則として、製造業の誘致は短期のうちに、大きな雇用増をも. たらし、波及効果も大きいと考えられているからである。 しかし、過去のデー. タをみると、製造業の増加による効果は、常に一定であるとは限らない。 次の図4-1は、1980年から2000年までの5時点の国勢調査に

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第4章
景気回復期における地域格差
第1節 はじめに
長い間、深刻な不況を経験した日本経済も、2002年初め頃より回復し、第二
次大戦後最悪の値を示していた失業率も、低下傾向を示している。一方で、経
済格差が拡大しているのではないかとする議論が盛んに行われるようになっ
た。こうした議論の中には、地域間の格差も重要なイシューとして取り上げら
れている。すなわち、日本経済全体をみると景気回復がみられるものの、景気
の回復や雇用の改善状況には地域差があり、相対的に見ると地域間で格差が広
がっていると考えられている。本章は、2001年と2004年に行われた「事業所・
企業統計調査」のデータを用いて、景気回復期における各地域の従業者数、事
業所数の動向を検討すること目的としている。
雇用情勢の地域間格差については、いくつかの研究が行われてきた(岩本
2002、勇上2004、周2005a)。例えば、岩本(2004)は、国勢調査によるデータ
を用いて、県別に失業率と人口、産業構造などの関連を検討し、人口の多い地
域、特に若年人口が高いと失業率が高いとした。また、勇上(2004)は岩本の
分析をさらに発展させて、岩本が検討したのと同じ人口要因に加え、各都道府
県の住民の学歴という労働需給側の要因、さらに産業構造を統制した上での残
余としての地域間格差(正確に言うと都道府県間格差)を見出そうとした。
周(2005a)は、これらの研究をさらに発展させ、空間的には都道府県を単
位としたものよりさらに細かい都市雇用圏を分析ユニットとし、時間的には
1980,1990,2000年の国勢調査のデータを用い、地域間格差の経時的な変化を観
察し、説明を試みた。その結果、地域間格差はむしろ縮小傾向にあること、地
域間の失業率の差には若年労働人口の割合、高齢者人口の割合、女性労働者に
占める比率、サービス業従事者の比率といった要因が地域別の失業率の高低の
要因となっているとした。
こうした、研究動向の一方で、これまで行われてきた地域雇用政策の中で、
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第4章 景気回復期における地域格差
最も多く行われてきたものは、企業誘致、それも、製造業の企業を誘致するこ
とだろう。特に、2001年以降、公共投資の見直し、縮小が行われ、また、地方
分権が叫ばれるようになると、企業の誘致は重要な雇用政策として期待されて
いる。過去の経験則として、製造業の誘致は短期のうちに、大きな雇用増をも
たらし、波及効果も大きいと考えられているからである。しかし、過去のデー
タをみると、製造業の増加による効果は、常に一定であるとは限らない。
次の図4-1は、1980年から2000年までの5時点の国勢調査によるデータを用い、
47都道府県を分析単位として、各年毎の失業率と製造業比率の相関係数、順位
相関係数をしめしている。確かに、各年とも失業率と製造業比率の間には統計
的に有意な負の相関があり、製造業比率の高い都道府県ほど失業率が低い傾向
がある。しかし、この図にあるように、製造業比率と失業率の間の関係は、年
によって強さを変えている。1980年には、相関係数、順位相関係数とも−0.4
程度であったのが、1985年には相関係数は−0.6を超えるようになる。しかし、
以降、1995年まで両者の関係は弱くなり、1995年には1980年とほぼ同じ水準と
なる。2000年には、1995年と同等あるいは若干、相関が高くなっている。こう
図表 4‐1 製造業比率と失業率の相関関係の推移(国勢調査データ)
0.0000
-0.1000
-0.2000
-0.3000
-0.4000
-0.5000
-0.6000
-0.7000
1980 1985 1990 1995 2000
相関係数 順位相関
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した変化の背景には、1990年代における不況が、製造業の不振に多くが起因し
ており、産業の空洞化等により、製造業の雇用吸収力が大きく落ち込むことに
よって失業率が上がったことがある。
このような、産業構造の変化の影響は、特定の時点で日本全体にみられたも
のだが、地域によっても、産業構造の影響が異なっていると考えられる。これ
まで行われてきた分析は、分析単位をどの様にとるかは別として、産業構造や
人口構造の独自の影響力を計測したものであった。これに対して、本論は、産
業構造と人口構造の交互作用も視野に入れて分析を行う。
また、これまでみてきたように、2000年以前の動向については、ある程度分
析が行われているので、本論では、2000年以降の動向をみることを目的とする。
用いられるデータは、2001年と2004年に行われた事業所調査のデータを最新の
市区町村区分別に集計したもの、および同じ年の住民基本台帳に基づいた各市
区町村の人口データである。事業所調査によるデータには、各年の産業大分類
別事業所数、従業員数が記載されている1。
第2節 方 法
本論で行われる分析は、2001年、2004年のそれぞれのデータに対して行われ
るクロスセクショナルな分析、および、2001年と2004年のデータの間の変化に
着目する経時的な分析に分かれる。以下、この2つの方法の要領を示す。
(1) クロスセクショナルな分析
2001年、2004年のそれぞれについて、全国1842の市区町村(東京都の三宅村
は緊急避難体制が続いているためこれを除いた)の従業員数を各市区町村の人
口で除したものを従属変数とし、各市区町村内の産業大分類別事業所数(これ
も、人口規模を統制するため人口で除している)を独立変数とした回帰モデル
を適用した。
(2) 2001年から2004年の間の変化に関する分析
1 ここで用いられている産業分類は、平成14年(2002年)の3月に改定されたものに基づいてい
る。具体的には農業、林業、漁業を一つのカテゴリーにまとめた。また、民間の事業所に分析を
限定した。2001年の事業所・企業統計調査のデータも同様の分類によって集計しなおした。
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第4章 景気回復期における地域格差
2001年から2004年の間の変化について分析するため、固定効果モデル
(Fixed effect model)を適用した。具体的には、2004年と2002年の各市区町村
の従業員数の差分を従属変数とし、同じく、産業大分類別の事業所数の差分を
取ったものを独立変数とした回帰モデルを適用した。このようにすることによ
って、各市区町村の人口規模、年齢構成等、モデルに含まれていない変数の効
果をコントロールできる。
(3) 地域の特性に関する分析
固定効果モデルに加えて、市部ダミー、町村部ダミーを独立変数にくわえ、
このダミー変数の主効果、および、産業別事業所数の差分との交互作用の効果
をみることとした。この方法は、純粋な固定効果モデルとは言いがたいが、地
域の特性と産業毎の変化との交互作用効果をみることによって、例えば、都市
部では、どの様な産業がどのような効果をもたらすかをみようとした。
第3節 クロスセクショナルな分析
2001年における、15の大分類産業別事業所数が、各市区町村の従業員数に与
える効果をみると(図表4-2)、鉱業、医療・福祉業、教育業を除くすべての産
業が5%水準で有意な効果を持っている。このうち、卸小売業と複合サービス
業を除くすべての産業がプラスの効果を持っている。すなわち、プラスの効果
を持つ産業の事業所が各市区町村内で増えれば、当該地域の従業員数が増加す
る。各産業の効果を比較するために、標準化回帰係数を算出した。この値を見
ると、1事業所あたりの効果が最も大きいのは「情報・通信業」であり、次に、
「その他のサービス」「金融業」「運輸業」「製造業」が続く。
、 、 、
2004年の分析結果によると、医療・福祉と教育を除くすべての産業が5%未満
の水準で有意な効果を持っている。2001年で有意な効果を持たなかった鉱業は、
1%未満の水準で有意な効果を持っているという結果になったが、その効果の
符合はマイナスになっている。そのほかの有意な効果を持っている産業で、効
果の符号がマイナスになっているのは、卸小売業と複合サービスである。
卸小売業の事業所は、一つの事業所辺りの就業者数が小さいので、事業所が
増えても、各市区町村における従業者数の増大にはつながらないことは納得で
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きる。鉱業も、日本においては石炭や石油などを採取するような大規模な鉱業
を営む事業所は数少なく、多くは採石や窯業原料の採取といった小規模の事業
所で占められている。複合サービス業は、平成14年の標準産業分類の改定で新
しく設けられたカテゴリーであり、内容は郵便局と協同組合であり、これも一
つの事業所の規模は小さいものと考えられる。しかし、1事業所あたりの従業
者数を産業別にみると、符号がマイナスとなった鉱業は2001年で11.99人、
2004年で11.24人、複合サービスでは2001年に14.24人、2004年で14.06人となっ
ており全体の平均と比べても、極端に少ないわけではない2。各産業の効果の
図表 4‐2 2001 年、2004 年の従業員数に対する各産業の効果
2001 年 2004 年
推定効果 標準化効果 有意水準 推定効果 標準化効果 有意水準
定数項 0.1429


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