• 離床動作における腹部正中創の創部張力と 創部への負担の少ない動作の検討


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    • Abstract: 上体を起こす」「片脚ずつ下ろして端座位になる」「柵や紐を使用する場合に完全に側臥位になってから上体を起. こす」動作で横に伸長していた.縦,横が伸長しない動作は「手をつかず座位から端座位になる,背筋を丸めた. まま上体を起こす」「脚を上げたまま腰を回転させ端座位になる」「側臥位にならずにやや上向きのまま上体を起. こす」であった.以上より創部の伸長を小さくする動作は「常に背中を丸めて動く」 「紐や柵を使用する場合は完. 全に側臥位にならずにやや上向きのまま上体を起こす」 「脚を上げたまま上体を起

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Bull.Nagano Coll.
Nurs.長野県看護大学紀要
6: 1 ∼ 25,
9 2004
原 著
離床動作における腹部正中創の創部張力と


創部への負担の少ない動作の検討
花村由紀* ,縄 秀志* ,野坂俊弥* ,池内美希代*1
1 1 1
【要 旨】 腹部正中創の創部張力と離床動作との関係を明らかにし,創部の負担が少ない離床方法を検討する事
を目的とし,動作画像及び創部張力の分析を行った.その結果,以下の事が明らかになった.
 創部は「上体を起こし座位から手をついて向きを変え端座位になる」動作で縦に伸長し,
「背筋を伸ばしたまま
上体を起こす」「片脚ずつ下ろして端座位になる」「柵や紐を使用する場合に完全に側臥位になってから上体を起
こす」動作で横に伸長していた.縦,横が伸長しない動作は「手をつかず座位から端座位になる,背筋を丸めた
まま上体を起こす」「脚を上げたまま腰を回転させ端座位になる」「側臥位にならずにやや上向きのまま上体を起
こす」であった.以上より創部の伸長を小さくする動作は「常に背中を丸めて動く」
「紐や柵を使用する場合は完
全に側臥位にならずにやや上向きのまま上体を起こす」
「脚を上げたまま上体を起こし,腰を回転させ端座位にな
る」であった.
【キーワード】 創部張力,動作画像,離床動作,腹部正中創
はじめに  今回,離床動作による創部張力の大きさが術後の創
部痛を反映していると考え,離床動作と創部張力に焦
 術後の早期離床は,回復促進及び術後合併症予防の 点をあてることとした.開腹手術後の創部張力の視点
ため,周手術期看護における重要な看護ケアの一つと から離床動作について検討されている文献は見当たら
して位置づけられている.しかし,臨床において,術 ない.離床動作における腹部正中創の創部張力を測定
前オリエンテーションでは離床の方法を示すのみであ し,創部張力が小さい動作パターン,すなわち創部へ
り,術後の患者は,手術による筋障害,筋力・体力の の負担の少ない離床動作を明らかにし,先行研究で明
低下及び創部痛などにより,離床動作に困難を感じて らかとなった筋負荷を少なくする動作パターンとの関
おり,術前の練習方法では離床できない事が多々ある. 連を検討することを目的とした.
そこで先行研究では,離床動作と使用筋群に焦点をあ
て, つの離床動作「まっすぐ起きる」
3 「右手で左柵を 研究方法
使って起きる」「右手で紐を使って起きる」において,
使用筋群の負荷が分散する動作パターンを明らかにし 1.対象
た.「まっすぐ起きる」では,腹斜筋,腹直筋の負担  長野県看護大学倫理委員会の承認を得た上で, (機
測定
が最も大きかった.「右手で左柵を使って起きる」「右 器の装着)が容易であること,年齢層の統一を図るた
手で紐を使って起きる」では,体を左側に向け上体を め,N大学男子学生に文書で呼びかけ,研究内容につ
起こすと同時に左脚をベッドの外に出し端座位になる いて十分に説明し,協力の得られた 9 2 歳の健康な
1∼2
動作が腹斜筋,腹直筋の負担を分散していた. 男性とした.
*1 長野県看護大学   
2003 年 1 月 13 日受付
− 19 −
花村他 : 離床動作と腹部正中創の創部張力との検討 Bulletin / Nagano College of Nursing, 6 2004
vol.,
2 3
. つの離床動作 れぞれの動作に馴化した後,測定を行った.各対象者
 仰臥位から端座位までを離床動作とし,次の3つの はひとつの動作につき5回試行し,一人あたり 5
1 回分
離床動作を行った. のデータを分析した.全ての動作はVTRで撮影した.
1)「まっすぐ起きる」:膝を立てて上を向いたまま
まっすぐ上体を起こし,端座位になる 4.研究期間
2)「右手で左柵を使って起きる」:右手で左側のベッ  2001年6月から11月
ド柵をつかみ,左肘でベッドを押しながら上体を起
こし,端座位になる 5.分析方法
3)「右手で紐を使って起きる」:右手で紐を持ち,左 1)離床動作毎に各対象者の5データの張力記録の波
手でベッド柵をつかみ,上体を起こし端座位になる 形を視覚的に比較し,波形にばらつきがないか確認
した.その中で最も波形が安定しているデータを特
3.創部張力の測定 定し, データを抽出した.

 腹部正中創を想定した部位の皮膚に2本の呼吸ピッ 2)抽出したデータについて,創部張力の縦横の伸長
クアップ用電導ゴム(TR735T : 日本光電)を密着さ と収縮がみられる部分を抽出し,張力波形動作の
せて設置し,そこから導出される電気的変動の程度を データと動作画像のデータを記録の時定数をもとに
観察することにより,創部にかかる張力の評価を試み 同期させ,張力に変化がある動作,特徴を抽出した.
た.すなわち,離床動作に伴って想定創部の縦横方向 3)各離床動作について4名の対象者の張力波形と動
に発生する張力が電導ゴムの伸張/短縮変形を誘起す 作画像 2
1 データ(3つの離床動作×4名)を照合し,
る.その変形により発生した加速度エネルギーと比例 離床動作毎に創部張力の縦横の伸長,収縮の大きい
関係にある電流を導出し,導出された電流の変動を生 動作及び小さい動作を同定した.
体アンプ(AA601H : 日本光電)で増幅した後,サー
マルアイレコーダー(WR7700 : グラフテック)によ 結 果
り25mm / secの記録速度で出力した.このような測定
手技は,胸部に設置した電導ゴムによる呼吸の評価, 1.対象者の特性(表1)
あるいは金属製ストレインゲージを用いた加速度計に  9
1 歳から 2
2 歳の健康な男子大学生4名について分析
よる身体活動量の評価などに多用されているが,本研 を行った.
究のような創部の張力評価に応用して検討している報
表1
告は見られない. ID 1 2 3 4 平均 SD
 創部にかかる縦張力を測定するため,初期長9cmの 身長(cm) 173 165 171 165 168.5 4.1
体重(㎏) 60 82 70 48 65 14.5
電導ゴムをあらかじめ12cmに伸張し,その下端を臍
BMI(㎏/㎡) 20.0 30.1 23.9 17.6 22.9 5.4
上5cmの腹部正中線上に設置し,非伸縮性のテープに 体脂肪率(%) 15.3 21.5 21.5 11.7 17.5 4.9
2
よりその両端を固定した.さらに,皮膚への密着性を BMI(Kaup’ index)
s =体重(㎏)/身長(m)
高めることによりデータの再現性を向上させることを
目的に,電導ゴムを伸縮性の高いテープ(TJ0817 :ジョ 2.各離床動作と腹部正中創の創部張力との関係
ンソンエンドジョンソン)で覆った.縦張力測定用電  図1∼3は創部張力を示し,基線より上の波高は創
導ゴムの中心点にもう1本の電導ゴムの中心点を直角 部の伸長,下の波高は創部の収縮を示している.
に重ね合わせ,同様の方法により設置したものを横張
力の測定に用いた. 1)「まっすぐ起きる」
 対象者には前述の3つの離床動作について詳細な示  仰臥位からベッド上に座位になる動作 (A)について
範と説明を与え,数回の練習を行わせることによりそ 述べる.縦の収縮 (A)は上体を起こすときに腹部が屈
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Bulletin / Nagano College of Nursing, 6 2004
vol., 花村他 : 離床動作と腹部正中創の創部張力との検討
2)「右手で左柵を使って起きる」
仰臥位 膝を立て, 四肢を体に引きつけ 端座位
頭を上げる 上を向いたまま
上体を起こす 仰臥位 頭を上げ,右手で 左肘でベッドを押し, 端座位
左側の柵をつかむ 脚を外に出しながら
上体を起こす
図1 「まっすぐ起きる」
図2 「右手で柵を使って起きる」
曲するため大きく, 名にみられたが,ID4は腹部の屈

曲が少ないため,収縮が最も小さかった.横の伸長 (B)  仰臥位から側臥位になる動作 (A)で,縦の収縮 (a)は,
は,ID1, 2にみられ,背筋を伸ばしたまま上体を起こ ID1,2に み ら れ た.こ れ は,膝 を 立 て る 事 で,腹 部
し,常に創部が引っ張られていることで伸長が大きく (創)が弛むためである.横の収縮 (b)は,ID1,2にみら
なっていた.横の伸長が長い ID1はゆっくりと上体を れ,膝を立て,横を向くためである.ID2は皮下脂肪
起こしていた.伸長が短い ID2は,両肘をついて反動 の影響により,波高が大きかった.膝を立てて側臥位
をつけて上体を起こしていた.横の伸長が全くなかっ にならなかった ID3,ID4は縦横ともに収縮はなかっ
た ID3, 4は,背筋を丸めたまま上体を起こしていた. た.
 次に,ベッド上座位から脚をベッドの外に下ろし,  側臥位から上体を起こす動作 (B)で,縦の収縮 (c)は
端座位になる動作 (B)について述べる.縦の伸長 (c)は, 4名に見られた.これは,起き上がるときに腹部が屈
ベッド上座位になってから手をついて向きを変え,重 曲するためである.横の伸長 (d)が大きかったのは,
心をかけながら脚を下ろすことにより,創が引っ張ら ID1,2であり,ほぼ完全な側臥位から背筋を伸ばしな
れ,ID2,3に大きく見られた.ID2は左手をベッドにつ がら肘をつき,右手で左柵を持ち起き上がるので,腹
き,重心をかけながら左脚を下ろし,ID3は両手をつ 部のねじれが大きく生じるからである.ID1は両脚を
いて脚を下ろしているため,伸長していた.ID1,4は, そろえてベッドの外へ出すのに対し,ID2は,左脚を
手をつかず片脚ずつゆっくりと下ろしているため,伸 大きくベッドの外に出し,上体を起こしながら右脚を
長が小さかった. 出していたため,伸長のカーブが3つになっていた.
 横の伸長 (d),収縮 (e)は,ID1,2に見られた.伸長 (d) また,腹部皮下脂肪が多いため,動作によりゆれが生
は,起き上がり端座位になる動作で,背筋を伸ばし片 じ,波高が大きくなっていた.ID3,4は,体がやや上
脚ずつおろしながら向きを変え,端座位になることで 向きのまま両脚を上げながら上体を起こし,腰を回転
創部がねじれるためであり,収縮 (e)は,両脚を下ろ させ端座位になるため,創部がねじれず,縦と横の伸
し,端座位になることで,創部のねじれがなくなるた 長,収縮はなかった.ID4は,動作において体に力が
めである.ID3,4は背筋を丸めた状態で,脚を上げた 入り体幹をまっすぐに一定にしたまま動いていたため,
まま腰を回転させて向きを変えてから脚を下ろして端 創部の伸長,短縮が少なかった.
座位になるため張力に変化がなかった.
 また,ID2は腹部の皮下脂肪が多いことにより,動 3)「 右手で紐を使って起きる 」
作毎に創部のゆれが大きく生じ,創張力の波高が大き  仰臥位から紐を巻きとり側臥位になる動作 (A)では,
くなり,皮下脂肪の少ない ID4は創部のゆれが少なく, 縦の収縮 (a)は,ID1,2でみられ,これは「柵を使って
波高が小さくなっていた. 起きる」と同様で,膝を立て,横を向くことで腹部
(創)が 弛 む た め で あ る.横 の 伸 長 (b),収 縮 (c)は,
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花村他 : 離床動作と腹部正中創の創部張力との検討 Bulletin / Nagano College of Nursing, 6 2004
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ると思われる.
 3つの離床動作において創部が伸長する動作及び伸
仰臥位 右手で紐を持つ 左手で柵をつかみ, 端座位
右手で紐を巻き取り 長しない動作は以下の動作である.
脚を外に出しながら
上体を起こす
1)「まっすぐ起きる」
(1)仰臥位からベッド上座位になる
・縦が伸長する:ベッド上座位になってから手をつ
き,片手に重心をかけながら脚を下ろし端座位に
なる/背筋を伸ばしたまま上体を起こす
図3 「右手で紐を使って起きる」
・縦が伸長しない:手をつかず脚を下ろし端座位に
ID1,2で見られた.伸長は,背筋を伸ばしたまま紐を なる/背筋を丸めたまま上体を起こす
巻き取り,強く紐を体に引き寄せるときに,肩が体幹 (2)ベッド上座位から端座位になる
より後ろになるために腹部が引っ張られるからである. ・横が伸長する:背筋を伸ばし,片脚ずつおろしな
紐を巻き終え側臥位になり,背中が曲がるときに,腹 がら体の向きを変え端座位になる
部が屈曲し収縮していた.横向きにならない ID3,4は, ・横が伸長しない:背筋を丸めた状態で,脚を上げ
縦横ともに伸長,収縮はなかった. たまま腰を回転させてから脚を下ろし端座位にな
 紐を引き寄せながら脚をベッドの外に出し,上体を る
起こして端座位になる動作(B)では,
縦の収縮(d)はID2,3,4
に見られた.これは,紐を使わずに腹筋を使用して上 2)「右手で左柵を使って起きる」
体を起こすことにより,腹部が屈曲するためである. 臥位から上体を起こし端座位になる
紐を使用し,紐を体に近いところで引き寄せ,その力 ・横が伸長する:ほぼ完全な側臥位から背筋を伸ば
で上体を起こす ID1は,腹部が屈曲しないため収縮が しながら右手で左柵を持ち上体を起こす/上体を
なかった.横の伸長 (e)が見られたのは ID1,2である. 起こしながら脚を下ろし,端座位になる
側臥位の状態から右手で紐を引きながら脚を下ろし, ・横が伸長しない:体がやや上向きのまま,両脚を
上体を起こす動作により,創がねじれるためである. 上げながら上体を起こす/脚を上げたまま腰を回
ID2は腹部皮下脂肪の影響により,波高が大きくなっ 転させ端座位になる
ていた.ID3,4は,体が上向きのまま,腹筋を使用し  
て,両脚を上げながら上体を起こし,腰の回転を利用 3)「 右手で紐を使って起きる 」(図3)
して端座位になるため創部にねじれが生じず,縦,横 (1)仰臥位から紐を巻き取り側臥位になる
の伸長,収縮はなかった. ・横が伸長する:背筋を伸ばしたまま紐を巻き取り,
強く紐を体に引き寄せる/
考 察 ・横が伸長しない:背中を丸めたまま紐を巻き取り,
強く引き寄せない
 臨床の場面では,手術後の患者が創部痛を訴えるの (2)紐を引き上体を起こし端座位になる
は,主に臥位の状態から上体を起こすときや大きく体 ・横が伸長する:側臥位から右手で紐を引きながら
の向きを変えるときなどである.離床するときは,創 足を下ろし,上体を起こし端座位になる
部痛を軽減するために,背筋を丸め,手で創部を保護 ・横が伸長しない:体が上向きのまま,腹筋を使用
しながらゆっくりと起き上がっている.離床動作にお して,両脚を上げながら上体を起こし,腰の回転
いて創部痛が生じるのは,創部が大きく引っ張られる を利用して端座位になる
ときと考えられ,創が伸長するときに創部痛が増強す
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Bulletin / Nagano College of Nursing, 6 2004
vol., 花村他 : 離床動作と腹部正中創の創部張力との検討
 以上のことから創部の伸長を小さくする動作のポイ の中央を持つ動作は,使用筋群が分散され,筋の負担
ントとして次のことが言える.第一点は,常に背中を を軽減し,また,創部張力への影響がないため,柵を
丸めて動くことである.第二点は,紐や柵を使用する 使用する患者には有用な動作である.
場合であっても,完全に側臥位にならずに,創部がね  術後は手術の異化作用により,疲労物質が蓄積され
じれないようやや上向きのまま上体を起こすことであ 倦怠感が強くなり,術前の状態及び手術の影響により
る.第三点は,上体を起こし端座位になるときには, 筋力や体力が低下していることが多い.それらを合わ
脚を上げたまま腰を回転させることである. せて考えると,安楽な離床動作を検討する上では,術
 一 方 先 行 研 究(縄,花 村,野 坂 他, 03
20 )で は, 前及び術後において,対象者の個別性,特に年齢や筋
「まっすぐ起きるよりも柵や紐を使って起きる」「まっ 力の有無をアセスメントし,本研究結果で示された動
すぐ上体を起こすときは,両肘をついて反動をつける」 作をもとに組み合わせを考え,負担の少ない動作を検
「仰臥位から側臥位になってから上体を起こす」「上体 討し,指導実施していくことが重要である.
を起こしながら脚をベッドの外に出し重力を使って端 また,創部痛に影響する要因として,腹部の皮下脂肪
座位になる」動作が腹斜筋,腹直筋の使用を小さくす があげられる.皮下脂肪は動作により創部のゆれを生
ることが明らかになった.柵を使う場合には,
「柵の じ,創部張力の伸長を大きくすることで創部痛を引き
上方を持つよりも柵の中央を持つ」,紐を使う場合に 起こすと考えられる.従って皮下脂肪の多い患者は,
は,「紐を腰の位置で巻き取り,腰の位置から腹部に 腹帯をしっかりと巻く,動作時には創部を手で押さえ
向かって小さく引っ張る」動作が筋負担を小さくする るなど創部が動かない工夫が必要であり,
このことは,
事が明らかになった.反対に,腹斜筋,腹直筋の使用 実際臨床の現場で行われており,有用なケアである事
が大きい動作は「道具を使用せず,まっすぐ起きる」 が確認できた.
「上体を起こしてから脚を下ろし端座位になる」「脚を  離床に伴う患者の苦痛の調査(山下,竹田,大道他,
上げたまま腰を回転させ体の向きを変え端座位になる」 19 )によると,術後は創部痛以外にドレーンやルー
90
「完全に側臥位にならず,やや上向きのまま上体を起 ト類挿入に伴う苦痛が大きいことや,創部痛は術後 4

こす」である. 時間をピークに日々軽減してくることから,術直後は
 前述の創部張力と筋負担を考え合わせると,以下の 創部そのものの痛みが強いが,数日後はADL拡大と
点が明らかになった.第一点は,背中を丸めて動くこ ともにドレーンやルート類挿入に伴う苦痛が生じ,術
とは,創部張力が小さく,筋負担の影響を受けないた 後の痛みの程度や種類は徐々に変化してくることが考
め,安楽な離床動作である.第二点は,体がやや上向 えられる.術後の早期離床の動作を検討する上で,創
きのまま柵や紐を使う,脚を上げたまま腰の回転を利 部張力だけではなく,ドレーン,ルート類挿入に伴う
用して向きを変え端座位になる動作は,創部がねじれ 苦痛も考慮していく必要がある.
ないため,創部張力は小さいが,脚を上げていること  今後は,胸部正中創,左開胸創についても,創部張
で,腹筋群を使用しているため,筋負担が大きいとい 力が変化するときの離床動作を抽出し,筋負担と創部
える.筋力を利用して起き上がるこれらの動作は,筋 張力との側面から安楽な離床動作の提案を行う予定で
力が十分ある患者の場合は,筋力を利用することで, ある.更に臨床での実施可能性について検討し,より
創部の動き(ねじれや伸長)が少なくなり,創部への 個別性のある術前術後のケアを見出していく事が課題
負担が軽減されるため,創部痛を軽減する上で有用で であると考える.
あるといえる.第三点は,側臥位になってから上体を
起こす,紐を腰の位置で巻き取る動作は,側臥位をと 結 論
ることで,使用筋群が分散され,筋負担が小さい動作
であるが,上体を起こすときに創部張力が大きくなり,  3つの離床動作における腹部正中創の創部張力と動
創部痛を伴う可能性がある動作である.第四点は,柵 作に関して,動作画像と張力波形を測定し分析した結
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花村他 : 離床動作と腹部正中創の創部張力との検討 Bulletin / Nagano College of Nursing, 6 2004
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果,以下の事が明らかになった.  以上より,創部の伸長が小さくなる動作のポイント
1)「まっすぐ起きる」 は,次の3点である.
(1)仰臥位からベッド上座位になる動作 1)常に背中を丸めて動く
・縦が伸長する:ベッド上座位から手をついて向き 2)紐や柵を使用する場合でも,完全に側臥位になら
を変え,脚を下ろし端座位になる/背筋を伸ばし ずに,やや上向きのまま上体を起こす
たまま上体を起こす 3)上体を起こし端座位になるときには,脚を上げた
・縦が伸長しない:手をつかず脚を下ろし端座位に まま腰を回転させる
なる/背筋を丸めたまま上体を起こす
(2)ベッド上座位から端座位になる動作  本研究は平成 2
1 年度から平成 5
1 年度の長野県看護大
・横が伸長する:背筋を伸ばしたまま上体を起こし 学特別研究補助金を受けている.第2回日本看護技術
ベッド上座位になる,片脚ずつ下ろしながら向き 学会で一部を報告した.
を変え端座位になる
・横が伸長しない:背筋を丸めた状態で,脚を上げ 文 献
たまま腰を回転させ端座位になる
神田小夜子,大橋規子,齋藤靖子他( 96 :筋電図
19 )
2)「右手で左柵を使って起きる」 による開胸術後の起き上がり動作の分析.第 7
2 回成
(1)臥位から上体を起こし端座位になる動作 人看護学Ⅰ集録集 : 5 - 5 .
1316
・横が伸長する:ほぼ完全な側臥位から背筋を伸ば 小松浩子,田中京子,田村正枝他( 97 :成人臨床
19 )
しながら右手で左柵を持ち上体を起こす 看護技術.小島操子編,系統看護学講座 専門5 
・横が伸長しない:体がやや上向きのまま,両脚を 成人看護学1(第 0 . 5 - 5 .医学書院,東京.
1 版) 2021
上げながら上体を起こす 齋藤靖子,関成美,野中君江( 98 :術後安静を要
19 )
(2)ベッド上座位から端座位になる する患者への早期離床のための「起き上がり方」の
・横が伸長する:上体を起こしながら脚を下ろし端 検討.看護技術 , 4
4 (8) 5 - 4
: 96 .
座位になる 真田弘美( 99 :
19 ) 手術を受ける患者への看護技術.泉
・横が伸長しない動作:脚を上げたまま腰を回転さ キヨ子,土居洋子編,H.成人看護学技術「 −急性
せ端座位になる 期にある患者の看護技術−(第2版) 1610
. 2 - 3 .廣
川書店,東京.
3)「 右手で紐を使って起きる 」 縄秀志,花村由紀,野坂俊弥他( 03 :3つの離床
20 )
(1)仰臥位から紐を巻き取り側臥位になる 動作における使用筋群の検討「まっすぐ起きる」右
‐ 「
・横が伸長する:背筋を伸ばしたまま紐を巻き取り, 手で柵を使って起きる」「右手で紐を使って起きる」
強く紐を体に引き寄せる の比較‐.長野県看護大学紀要第5巻 :1- .

・横が伸長しない:背中を丸めたまま紐を巻き取り, 山下祐子,武田富美江,大道千鶴他( 90 :手術後
19 )
強く引き寄せない の離床に伴う患者の苦痛の実態調査.第 1
2 回成人看
(2)紐を引き上体を起こし端座位になる 護学Ⅰ集録集 : 35 .
5-5
・横が伸長する:側臥位の状態から紐を引きながら 山内三千代,後藤仁美,安藤美穂( 98 :開腹手術
19 )
脚を下ろし,上体を起こし端座位になる 後の苦痛の少ない離床方法の検討−3種類の起き上
・横が伸長しない:体が上向きのまま腹筋を使用し がり動作の比較‐.第 9
2 回成人看護学Ⅰ集録集: 3
5-
て,両脚を上げながら上体を起こし,脚を上げた 5.

まま腰の回転を利用して端座位になる
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Bulletin / Nagano College of Nursing, 6 2004
vol., 花村他 : 離床動作と腹部正中創の創部張力との検討
【Summary】
Relationship between Tension of Postoperative Midline
Wound of Abdomen and Movement of Elevation from
Supine Position to Sitting Position
Yuki HANAMURA,Hideshi NAWA,Toshiya NOSAKA,Mikiyo IKEUCHI
Nagano College of Nursing
 The purpose of this study is to clarify the relationship between the tension on the midline wound of
the upper abdomen and movement of three types of elevation from supine position to sitting position.
 Each of the four subjects attempted 3 types of movement repeated 5 times for a total of 4 × 15 = 60
movements at one session. On each movement, tension of the wound and VTR measurements were
recorded. The movements and the tensions of the wound were compared and the following differences
of the tension accompanying each motion were extracted.
1 Longitudinal stretches of the midline abdominal wound occurred when one sat up from the supine
position, and turned to one side by putting hands on the bed to sit at the bedside.
2 Horizontal stretches of the wound occurred when one sat up from the supine position, oneユs back
being straight, and turned to one side by lowering legs, one by one, to sit at the bedside.
3 No stretches occurred when one elevated one’ upper body from the halfway position between
s
supine and lateral with one’ back hunched but without putting hands on the bed, and turned on
s
hips with both legs lifted off the bed, to sit at the bedside.
This study suggests a postoperative patient can reduce the burden on the midline abdominal wound
by the following three movements:
1 Movement with one’ back hunched.
s
2 Elevation from a halfway position between supine and lateral, in the case of using a side rail or a
rope for support.
3 Turning on one’ hips with both legs bent at the knees, on to the abdomen.
s
Keywords : tension of wound, VTR measurement, movement from supine position, midline wound of the
upper abdomen
花村由紀 (はなむら ゆき)
〒 399-4117 駒ヶ根市赤穂 1694  長野県看護大学
0265-81-5172
Yuki HANAMURA
Nagano College of Nursing
1694 Akaho, Komagane, 399-4117 Japan
e-mail: [email protected]
− 25 −


Use: 0.1053