• Taro-「個人所得課税による再分配


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    • Abstract: - 1 - 論文要旨. 現在 わ が国 で は 、 財政状況 の 悪化 、 急速 な 少子高齢化 、 所得格差 の 拡大等 、 ... り 、 こ の 問題 に 対 し て 所得再分配機能 を 有 す る 所 得税 で 対応 し て い く こ と は 重 ...

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論文要旨
現在わが国では、財政状況の悪化、急速な少子高齢化、所得格差の拡大等、
様々な問題に直面している。特に、所得格差の拡大が近年では問題視されてお
り、この問題に対して所得再分配機能を有する所得税で対応していくことは重
要な課題である。市場経済の下での所得分配に、ある程度の格差が生じること
はやむを得ないが、所得格差の拡大を放置することは決して望ましいことでは
ない。所得格差が拡大しているのであれば、所得税が持つ所得再分配機能が十
分に発揮されるような制度を構築する必要が生じてくる。
本稿では、近年の所得格差の拡大に対して、所得税による所得再分配が、今
後どの程度可能なのかを検証するために、所得税の累進度と再分配効果の計測
を 行 っ た 。 ま た 、 2007 年 の 小 泉 税 制 改 革 を 考 慮 し 、 個 人 住 民 税 を 含 め た 累 進
度と再分配効果の計測も行っている。なお、わが国における労働力人口の大部
分が給与所得者であることから、 与所得者に焦点をあてた分析となっている。

分析の結果は以下のとおりである。不平等度尺度の計測の結果、 家計調査

年 報 』と『 税 務 統 計 か ら 見 た 民 間 給 与 の 実 態 』の ど ち ら を 用 い た 場 合 で も 、1985
年 以 降 の 所 得 格 差 の 拡 大 が 確 認 で き た 。 ま た 、 2000 年 以 降 の 所 得 格 差 の 拡 大
は、低所得者層と高所得者層における階層内の不平等化が原因であることがわ
かった。特に、低所得者層は所得シェアが高いため、所得分布全体の所得格差
に対する寄与度が最も高くなっている。一方、高所得者層の所得格差拡大のペ
ースは、低所得者層のそれを大きく上回る。しかし、高所得者層の所得シェア
は他と比較しても小さいため、所得分布全体の所得格差に対する寄与度は小さ
くなっている。
所得格差が拡大している一方で、所得税の再分配効果は低下していることが
確 認 で き た 。 構 造 的 累 進 度 を 1985 年 時 点 と 比 較 す る と 、 全 体 的 に 低 下 を 示 し
て い る こ と か ら 、累 進 性 の 緩 和 に よ る 再 分 配 効 果 の 低 下 だ と 考 え ら れ る 。ま た 、
個 人 住 民 税 を 含 め た 再 分 配 効 果 は 1999 年 時 点 の 水 準 と ほ ぼ 同 じ で あ る 。 構 造
的 累 進 度 に つ い て は 、 配 偶 者 特 別 控 除 の 上 乗 せ が 廃 止 さ れ た 2004 年 に 、 低 所
得者層で変化がみられた。しかし、その後はすべての所得階層において安定的
に ほ ぼ 横 ば い で 推 移 し て お り 、 2007 年 の 税 制 改 革 に お い て も 大 き な 変 化 は み
られなかった。
-1-
所得格差是正のためには低所得者に対する政策が今後の課題となる。 かし、

現在わが国には、所得課税の影響を受けない課税最低限以下の給与所得者が数
多く存在している。これを考慮した場合、現状の所得税制で直接的に所得格差
の是正を行うには、限界があるとの結論に至った。今後は、所得課税よりもむ
しろ、社会保障により低所得者層内の所得水準を引き上げていくことが、所得
格差の根本的な解決につながると考えられる。
社会保障の拡充のためには財源を確保しなければならない。わが国における
社会保障負担を含めた公的負担は、国際的にみても比較的低い水準に属する。
国際比較の観点からも、納税者に対して現状よりも重い税負担を求める余地は
あるように思われる。今後は、これまで引き上げられてきた課税最低限を抜本
的に見直し、個人所得課税本来の所得再分配機能をとり戻す必要があると考え
る。
-2-
「個人所得課税による再分配効果」
はじめに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .5
.........................
第 1 章 所得税法の改正と累進税率表の改正 . . . . . . . . . . . .8
...........
1.1 抜本的税制改革までの所得税法の改正 . . . . . . . . . 8
.........
( 1) 高 度 経 済 成 長 期 に お け る 改 正 . . . . . . . . . . . 8
...........
( 2) 2 兆 円 減 税 の 実 施 . . . . . . . . . . . . . . . 12
...............
(3)抜 本 的 税 制 改 革 の 流 れ . . . . . . . . . . . . . . 16
.............
1.2 抜 本 的 税 制 改 革 後 の 所 得 税 法 の 改 正 . . . . . . . . . . 19
.........
( 1) 先 行 減 税 の 実 施 . . . . . . . . . . . . . . . . 19
................
(2)小 泉 税 制 改 革 . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
.................
第 2 章 再 分 配 効 果 に 関 す る 先 行 研 究 . . . . . . . . . . . . . . . 25
..............
2.1 累 進 度 計 測 の た め の 指 標 . . . . . . . . . . . . . . . 25
..............
(1) 構 造 的 累 進 度 . . . . . . . . . . . . . . . . . 25
.................
(2) 分 配 的 累 進 度 . . . . . . . . . . . . . . . . . 33
.................
(3)租 税 関 数 に よ る 累 進 度 の 計 測 . . . . . . . . . . . . 38
............
2.2 所 得 税 の 再 分 配 効 果 に 関 す る 先 行 研 究 . . . . . . . . . 39
.........
(1)累 進 度 の 計 測 に 関 す る 先 行 研 究 . . . . . . . . . . . 39
..........
(2)等 価 所 得 を 用 い た 不 平 等 度 の 計 測 . . . . . . . . . . 44
.........
第 3 章 わ が 国 に お け る 不 平 等 度 の 推 移 と 再 分 配 効 果 . . . . . . . . 48
.......
3.1 不 平 等 度 尺 度 の 推 移 . . . . . . . . . . . . . . . . 49
................
3.2 所 得 税 の 累 進 度 の 計 測 . . . . . . . . . . . . . . . 57
...............
(1)構 造 的 累 進 度 の 計 測 . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . . . . .57
( 2) 租 税 関 数 の 推 計 に よ る 累 進 度 の 計 測 . . . . . . . . 64
........
(3)所 得 税 に よ る 再 分 配 効 果 . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . . . 68
3.3 個 人 住 民 税 を 含 め た 累 進 度 の 計 測 . . . . . . . . . . . 74
..........
(1)構 造 的 累 進 度 の 計 測 . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . . . . .74
-3-
( 2) 租 税 関 数 の 推 計 に よ る 累 進 度 の 計 測 . . . . . . . . 78
........
(3)個 人 住 民 税 を 含 め た 再 分 配 効 果 . . . . . . . . . . . 80
..........
3.4 所 得 格 差 に 対 す る 今 後 の 個 人 所 得 課 税 の あ り 方 . . . . . 87
.....
(1)所 得 課 税 に よ る 所 得 格 差 是 正 の 限 界 . . . . . . . . . 87
........
(2)所 得 課 税 の 負 担 水 準 の 見 直 し . . . . . . . . . . . 90
...........
お わ り に . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 96
.........................
-4-
はじめに
わが国における現行の所得税の基礎は、シャウプ勧告の理念に基づき実施さ
れ た 1950 年 の 税 制 改 革 に お い て 確 立 し た と い え る 。 そ の 後 、 所 得 税 は そ の 時
々 の 経 済 情 勢 や 社 会 状 況 に 応 じ て 、 幾 度 と な く 改 正 が 行 わ れ て き た 。 1949 年
のシャウプ勧告を出発点とし、高度経済成長、オイルショック、バブル経済、
平成不況等を経て、現在の所得税制度が築き上げられている。
経済や社会の情勢は常に変化しており、それら変化に対して所得税には今後
も迅速な対応が求められる。現在わが国では、財政状況の悪化、急速な少子高
齢化、所得格差の拡大等、様々な問題に直面している。特に、所得格差の拡大
が近年では問題視されており、この問題に対して所得再分配機能を有する所得
税で対応していくことは重要な課題であるといえよう。
近年の所得格差の高まりは、様々な報告書で報告されている。厚生労働省が
実 施 し て い る 『 所 得 再 分 配 調 査 報 告 書 (平 成 17 年 )』 に よ れ ば 、 当 初 所 得 に よ
る ジ ニ 係 数 は 平 成 5 年 で 0.4394、 平 成 17 年 で 0.5263 と な っ て お り 、 所 得 格 差 の
拡 大 が 確 認 で き る 。 ま た 、 内 閣 府 が 報 告 す る 『 年 次 経 済 財 政 報 告 (平 成 21 年 7
月 )』 で は 『 就 業 構 造 基 本 調 査 』 を 用 い て 、 1 人 当 た り の 賃 金 格 差 の 現 状 を 分
析 し て い る 。 分 析 の 結 果 、 「両 期 間 に お い て 、 構 造 変 化 要 因 、 す な わ ち 非 正 規
雇用比率の上昇は賃金格差の拡大に寄与していることがわかり、非正規雇用者
の 増 加 が 労 働 所 得 の 格 差 拡 大 の 主 因 と な っ て い る こ と が 理 解 で き る 。 」と 述 べ
ている 。さらに、同報告書では『全国消費実態調査』を用いて、1 世帯当た
1)
りの家計所得の格差の分析も行っている。1 世帯当たりの家計所得の格差に関
し て は 、 「高 齢 化 が す う 勢 的 に 我 が 国 の 所 得 格 差 を 広 げ て き た 主 因 と し て 働 い
た こ と は 間 違 い な い と い え る 。 」と 述 べ て い る 。
2)
市場経済の下での所得分配に、ある程度の格差が生じることはやむを得ない
が 、所 得 格 差 の 拡 大 を 放 置 す る こ と は 決 し て 望 ま し い こ と で は な い 。財 政 に は 、
資源配分機能、所得再分配機能、経済安定機能の 3 つの機能が存在しており、
1)内 閣 府 (2009)p.229 よ り 引 用 。 な お 、 こ こ で い う 両 期 間 と は 、 「 1997 年 -2002 年 」と 「 2002 年 -2007 年 」の 2
つの期間である。
2)内 閣 府 (2009)p.232 よ り 引 用 。 な お 、 分 析 結 果 に つ い て 、 「分 析 の 結 果 は 区 分 の 分 類 方 法 な ど に よ っ て
左 右 さ れ る こ と か ら あ る 程 度 幅 を 持 っ て 見 る 必 要 が あ る 」と し て い る 。 (内 閣 府 (2009)p.232)
-5-
そのなかでも所得再分配機能は、 得格差の是正に重要な役割を果たしている。

所得再分配機能を有する所得税は、課税により所得分布の平準化を図り、市場
経済の下で生じた所得格差の是正を行っていく。また、累進税率の下、担税力
に応じて課税が行われるため、所得格差の是正に対する貢献度は、税制の中で
も特に高い。所得格差が拡大しているのであれば、所得税が持つ所得再分配機
能が十分に発揮されるような制度を構築する必要が生じてくる。
し か し 、 所 得 税 に 対 し て は 近 年 、 減 税 措 置 が 何 度 も 実 施 さ れ て き た 。 1980
年代後半の抜本的税制改革では、給与所得者の重税感の高まりや、世界的な税
制改革の流れもあり、累進税率表のフラット化が段階的に実施されてきた。平
成以降も、長期の不況に対する景気対策の意味合いで、課税最低限の引き上げ
や 最 高 税 率 の 引 き 下 げ 等 の 減 税 が 実 施 さ れ て き た 。 そ の 結 果 、 1999 年 ま で に
は 最 高 税 率 は 37%、 累 進 税 率 表 の 段 階 数 は 4 段 階 と な り 、 あ る 程 度 の フ ラ ッ ト
化が実現している 。
3)
このような改正の結果、現状の所得税に対しては負担水準の低下、課税ベー
スの縮小、累進性の緩和による再分配効果の低下が指摘されている。政府税制
調 査 会 は こ う し た 現 状 を 踏 ま え 、 抜 本 的 な 税 制 改 革 に 向 け た 基 本 的 考 え 方 (平

成 19 年 11 月 )』 の 中 で 、 「個 人 住 民 税 の 比 例 税 率 化 や 、 今 後 の 税 体 系 全 体 に お
ける消費税の役割も踏まえつつ、社会保障制度とともに所得再分配を担う存在
として、所得税の役割を適切に発揮させていくことは重要な課題である。とり
わけ、いわゆる格差問題への意識の高まり等から、所得税の所得再分配機能の
あ り 方 が 問 わ れ て い る 。 」と 今 後 の 所 得 税 の あ り 方 に つ い て 言 及 し て い る 。
4)
所得格差の問題に対しては、所得税の課税を強化し、再分配効果を強めてい
くことが求められる。本稿では、近年における所得格差の拡大に焦点をあて、
所得税による所得再分配が、今後どの程度可能なのかを検証していく。分析の
際には、わが国における労働力人口の大部分が給与所得者であることから、給
3)2007 年 の 税 制 改 正 で は 、 所 得 税 の 最 高 税 率 は 40%、 累 進 税 率 表 の 段 階 数 は 6 段 階 と な る 。 し か し 、 こ
の改正は三位一体改革のもと、所得税から個人住民税への税源移譲を意図したものであり、増税を意図
したものではない。
4)税 制 調 査 会 『 抜 本 的 な 税 制 改 革 に 向 け た 基 本 的 考 え 方 (平 成 19 年 11 月 )』 (p.10)よ り 引 用 。
-6-
与所得者に焦点をあてて分析を進めていく 5)
。 ま た 、 2007 年 に は 小 泉 税 制 改 革
が実施されているが、この改革は三位一体改革のもと所得税から個人住民税へ
の税源移譲を意図したものである。そのため、個人住民税を含めた個人所得課
税 の 最 高 税 率 で あ る 50%に 、 改 正 前 後 で 変 化 は み ら れ な い 。 小 泉 税 制 改 革 の 影
響を分析する際には、国税である所得税と地方税である個人住民税を合わせた
計 測 が 適 切 で あ る 。 本 稿 で は 、 2007 年 の 税 制 改 革 の 影 響 を み て い く た め に 、
個人住民税を含めた累進度と再分配効果の計測も行っている。
本稿の構成は以下のとおりである。まず、第 1 章では、累進度と再分配効果
の変化を適切に理解するために、所得税が現在までにどのような改正をたどっ
てきたのかを確認していく。その際には、わが国の経済状況、納税者の税負担
割合を踏まえながら、累進税率表、給与所得控除、人的控除を中心に、その改
正を追っていく。
次に、第 2 章では、実際の分析に用いる累進度の指標や、不平等度尺度の特
性をみていく。また、わが国における、所得税の累進度と再分配効果に関する
これまでの先行研究を分析手法も踏まえながらみていく。
最後に、第 3 章では、総務省の『家計調査年報』と国税庁の『税務統計から
見た民間給与の実態』を用いて、実際に累進度と不平等度尺度を計測し、時系
列 で そ の 推 移 を み て い く 。 所 得 税 に つ い て は 、 1985 年 以 降 の 累 進 度 と 再 分 配
効果を計測している。また、個人住民税を含めた累進度と再分配効果について
は 、 1999 年 以 降 の 計 測 を 主 に 行 っ て い る 。 さ ら に 、 こ れ ら 分 析 結 果 を う け て 、
所得格差に対する今後の個人所得課税のあり方の検討を行う。
5)総 務 省 統 計 局 の 『 労 働 力 調 査 』 (2007 年 )に よ る と 、 2007 年 の 労 働 力 人 口 は 6,659 万 人 、 雇 用 者 は 5,561
万 人 で あ り 、 労 働 力 人 口 に 占 め る 雇 用 者 の 割 合 は 83.5%と 高 い 水 準 に あ る 。 労 働 人 口 の ほ と ん ど が 給 与
所得者であることから、本稿では、給与所得者に焦点をあてて分析を進めていく。なお、 労働力調 『
査』における雇用者の定義は、 会社,団体,官公庁又は自営業主や個人家庭に雇われて給料,賃金を

得ている者及び会社,団体の役員」とされている。
-7-
第 1章 所得税法の改正と累進税率表の改正
本稿の分析では、不平等度尺度、再分配係数、累進度を計測し、これらの変
化を長期時系列の推移でみていく。しかし、その理解には所得税法が、現在ま
でにどのような改正をたどってきたかを知ることが重要である。そのために本
章 で は 、 1980 年 代 後 半 の 抜 本 的 税 制 改 革 を ひ と つ の 区 切 り と し て 、 我 が 国 の
経済状況、納税者の所得税負担割合を踏まえながら所得税法の改正を追ってい
く 。その際は、累進税率の構造が所得再分配効果に大きく影響を与えること
6)
を考え、累進税率表、及び課税所得算出の要素となる給与所得控除、人的控除
の改正を中心にみていく。
1.1 抜本的税制改革までの所得税法の改正
(1)高 度 経 済 成 長 期 に お け る 改 正
わ が 国 で は 、 1949 年 の シ ャ ウ プ 勧 告 に 基 づ き 実 施 さ れ た 1950 年 の 税 制 改 革
において、シャウプ勧告の理念に全面的に沿った税制が実現した。わが国の近
代的税制は、この年に確立されたといえる。シャウプ勧告の理念は、直接税中
心の税制を確立し、包括的所得税、さらには総合累進課税を徹底することであ
っ た 。つ ま り 、包 括 的 所 得 税 の 観 点 か ら 、給 与 所 得 、事 業 所 得 、資 本 所 得 等 の 、
すべての所得を合算したものを原則的に課税ベースとし、その合算した所得に
累進税率を適用しようというものである。しかし、このシャウプ勧告の理念は
1953 年 の 改 正 に よ り 崩 れ る こ と に な る 。 1953 年 の 改 正 で は 利 子 所 得 の 分 離 課
税が実施され、さらには有価証券の譲渡所得課税が廃止されることになった。
これは包括的所得税の考え方に反するものであり、この改正により、わが国の
税制は早くもシャウプ勧告の理念から背離するものへと変容した。
1950 年 代 に 入 る と わ が 国 は 、 本 格 的 な 経 済 成 長 に 突 入 し た 。 高 度 経 済 成 長 期
における所得税法の改正は、名目所得の上昇に伴う税負担の増大を避けるため
に、ほぼ毎年のように実施された。所得税は累進税率の構造を持つため、経済
成長に伴い名目所得が上昇すれば、課税所得に適用される税率が引き上げられ
6)こ こ で 示 す 所 得 税 負 担 割 合 は 、 給 与 所 得 者 に お け る 所 得 税 負 担 割 合 で あ る 。
-8-
る。この現象はブラケット・クリープと呼ばれ、購買力の増加を伴わない所得
の名目的な上昇は、累進税率のもとでは税負担の実質的な増大につながること
になる。
イ ン フ レ 調 整 を 目 的 と し た 所 得 税 法 の 改 正 が 続 け ら れ る 中 、 1964 年 12 月 に
は 、政 府 税 制 調 査 会 に よ る 初 の 長 期 答 申 で あ る『 今 後 に お け る わ が 国 の 社 会 、

経済の進展に即応する基本的な租税制度のあり方」についての答申』が示され
た。この答申では、 わが国の経済は今や開放体制に入り、新たな成長発展を

図るべき時期に直面している。当然わが国の税制もこのように成長発展をとげ
る経済の現実に即応し、かつ、基本的には安定した姿に整備することが強く要
請される。 として、今後の経済状況の変化に即応した税体系の構築の必要性

を主張し、さらには、わが国の税制のあり方についての根本的な再検討をも提
案している 。 表 1-1 か ら 表 1-5 は 、 初 の 長 期 答 申 が 示 さ れ た 1964 年 か ら 現 在
7)
までの所得税法の推移を、累進税率表、給与所得控除、人的控除を中心に示し
た も の で あ る 。 次 に 図 1-1 は 、 給 所 得 者 の う ち 納 税 者 の 所 得 税 の 平 均 負 担 割 合
の 推 移 を 、 1964 年 か ら 2007 年 ま で 示 し た も の で あ る 。 表 1-1 を み て も わ か る
8)
よ う に 、 所 得 税 法 は 1970 年 代 前 半 ま で に 、 累 進 税 率 表 、 給 与 所 得 控 除 、 人 的
控 除 に つ い て ほ ぼ 毎 年 の よ う に 改 正 が 実 施 さ れ た 。 こ れ は 、 1964 年 の 長 期 答
申の考え方である、 成長発展をとげる経済の現実に即応」した結果であると

い え る 。 ま た 、 こ の 期 間 の 所 得 税 の 負 担 割 合 は 、 1964 年 の 5.8 % か ら 1971 年 に
は 4.8 % ま で 低 下 し た 。
7)政 府 税 制 調 査 会 『 今 後 に お け る わ が 国 の 社 会 、 経 済 の 進 展 に 即 応 す る 基 本 的 な 租 税 制 度 の あ り 方 」

に つ い て の 答 申 (昭 和 39 年 12 月 )』 (p.1)よ り 引 用 。
8)『 税 務 統 計 か ら 見 た 民 間 給 与 の 実 態 』 (各 年 版 )よ り 作 成 。 1 年 を 通 じ て 勤 務 し た 給 与 所 得 者 の う ち 納
税 者 の 数 値 を 使 用 し て い る 。 な お 、 負 担 割 合 は 1964 年 か ら 1980 年 ま で は 平 均 税 額 /平 均 給 与 で 算 出 さ れ 、
1981 年 か ら 2007 年 に つ い て は 、 税 額 /給 与 総 額 で 算 出 さ れ た も の を 使 用 し て い る 。
-9-
表 1-1 累進税率表、給与所得控除、人的控除(1964 年~ 1972 年)
累進税率表 給与所得控除 人的控除
1964年 10万円以下 8% 給与の収入金額から2万円の 基礎控除 12万円
10万円を超える金額 10 定額控除を行い、その残高に 配偶者控除 11万円
20 〃 15 ついて 扶養控除
50 〃 20 40万円まで 20% 15歳以上 5万円
80 〃 25 80 〃 10 15-13歳 5万円
120 〃 30 (最高14万円) 13歳未満 4万円
180 〃 35 控除対象配偶者なしは
250 〃 40 1人目 7万円
400 〃 45
600 〃 50
1,000 〃 55
2,000 〃 60
3,000 〃 65
4,500 〃 70
6,000 〃 75
(15段階)
1965年 同上 給与の収入金額から3万円の 基礎控除 13万円
定額控除を行い、その残高に 配偶者控除 12万円
ついて 扶養控除
50万円まで 20% 13歳以上 6万円
70 〃 10 13歳未満 5万円
(最高15万円) 控除対象配偶者のない
場合1人目 8万円
1966年 10万円以下 8.5% 給与の収入金額から4万円の 基礎控除 14万円
10万円を超える金額 10 定額控除を行い、その残高に 配偶者控除 13万円
30 〃 15 ついて 扶養控除
60 〃 20 60万円まで 20% 13歳以上 6万円
100 〃 25 80 〃 10 13歳未満 6万円
150 〃 30 (最高18万円) 控除対象配偶者のない
220 〃 35 場合1人目 8万円
300 〃 40
400 〃 45
600 〃 50
1,000 〃 55
2,000 〃 60
3,000 〃 65
4,500 〃 70
6,000 〃 75
(15段階)
1967年 10万円以下 9% 給与の収入金額から7万円の 基礎控除 15万円
10万円を超える金額 10 定額控除を行い、その残高に 配偶者控除 15万円
30 〃 15 ついて 扶養控除 7万円
60 〃 20 60万円まで 20% 控除対象配偶者のない
100 〃 25 80 〃 10 場合1人目 8万円
150 〃 30 (最高22万円)
220 〃 35
300 〃 40
400 〃 45
600 〃 50
1,000 〃 55
2,000 〃 60
3,000 〃 65
4,500 〃 70
6,000 〃 75
(15段階)
- 10 -
累進税率表 給与所得控除 人的控除
1968年 10万円以下 9.5% 給与の収入金額から10万円の 基礎控除 16万円
10万円を超える金額 10 定額控除を行い、その残高に 配偶者控除 16万円
30 〃 15 ついて 扶養控除 8万円
60 〃 20 80万円まで 20% 配偶者がいない場合
100 〃 25 100 〃 10 1人目 10万円
150 〃 30 (最高28万円)
220 〃 35
300 〃 40
400 〃 45
600 〃 50
1,000 〃 55
2,000 〃 60
3,000 〃 65
4,500 〃 70
6,000 〃 75
(15段階)
1969年 30万円以下 10% 給与の収入金額から10万円の 基礎控除 17万円
30万円を超える金額 14 定額控除を行い、その残高に 配偶者控除 17万円
60 〃 18 ついて 扶養控除 10万円
100 〃 22 80万円まで 20% 配偶者がいない場合
150 〃 26 100 〃 15 1人目 11万円
200 〃 30 200 〃 5
250 〃 34 300 〃 2.5
300 〃 38 (最高36.5万円)
400 〃 42
500 〃 46
700 〃 50
1,000 〃 55
2,000 〃 60
3,000 〃 65
4,500 〃 70
6,500 〃 75
(15段階)
1970年 30万円以下 10% 給与の収入金額から10万円の 基礎控除 18万円
30万円を超える金額 12 定額控除を行い、その残高に 配偶者控除 18万円
60 〃 14 ついて 扶養控除 12万円
90 〃 16 100万円まで 20% 配偶者がいない場合
120 〃 18 200 〃 10 1人目 13万円
150 〃 21 400 〃 5
200 〃 24 (最高50万円)
250 〃 27
300 〃 30
350 〃 34
400 〃 38
500 〃 42
600 〃 46
800 〃 50
1,000 〃 55
2,000 〃 60
4,000 〃 65
6,000 〃 70
8,000 〃 75
(19段階)
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累進税率表 給与所得控除 人的控除
1971~72年 40万円以下 10% 給与の収入金額から13万円の 基礎控除 20万円
40万円を超える金額 12 定額控除を行い、その残高に 配偶者控除 20万円
80 〃 14 ついて 扶養控除 14万円
120 〃 16 100万円まで 20% 配偶者がいない場合
160 〃 18 200 〃 10 1人目 15万円
200 〃 21 400 〃 5
260 〃 24 (最高53万円)
320 〃 27
380 〃 30
440 〃 34
500 〃 38
600 〃 42
700 〃 46
900 〃 50
1,200 〃 55
2,000 〃 60
4,000 〃 65
6,000 〃 70
8,000 〃 75
(19段階)
(%)
7.0
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
64 66 68 70 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 9 8 00 02 04 06
19 19 19 19 19 1 9 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 20 20 20 20

出 所 : 税 務 統 計 か ら 見 た 民 間 給 与 の 実 態 』 (各 年 版 )よ り 作 成 。

備 考 )1 年 を 通 じ て 勤 務 し た 給 与 所 得 者 の う ち 納 税 者 の 数 値 を 使 用 し て い る 。 な お 、 負 担 割 合 は 1964 年
か ら 1980 年 ま で は 平 均 税 額 /平 均 給 与 で 算 出 さ れ 、 1981 年 か ら 2007 年 に つ い て は 、 税 額 /給 与 総 額
で算出されたものを使用している。
図 1-1 所得税の平均負担割合の推移
(2)2 兆 円 減 税 の 実 施
1970 年 代 初 め に は 、 1973 年 の 第 1 次 石 油 シ ョ ッ ク を 原 因 と す る 、 異 常 な イ ン
フレーションが発生したため、名目所得の急激な上昇による税負担の増加が懸
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9)
念された 。 さ ら に 1973 年 に 人 的 控 除 と 給 与 所 得 控 除 の 改 正 が 行 わ れ た も の
の 、 累 進 税 率 表 に つ い て は 1971 年 以 降 、 改 正 は 実 施 さ れ て い な か っ た 。 所 得
税 の 負 担 割 合 の 推 移 を み る と 、 1971 年 の 4.8%か ら 1973 年 に は 5.5%ま で 上 昇 し
た 。 こ れ ら 経 済 状 況 の 変 化 に 対 応 す る た め 、 1974 年 と 1975 年 に は 、 2 兆 円 減 税
と呼ばれる大規模な減税が実施された。2 兆円減税の具体的な内容は、人的控
除 に つ い て は 基 礎 控 除 、 配 偶 者 控 除 、 扶 養 控 除 の す べ て が 24 万 円 ま で 引 き 上
10)
げられた 。給与所得控除は大幅に変更され、これまでの定額控除制度と控
除 の 最 高 限 度 額 の 設 定 が 廃 止 さ れ た 。 1974 年 の 改 正 に よ り 給 与 所 得 控 除 の 仕
組 み は 、 与 収 入 150 万 円 ま で は 40%、
給 300 万 円 ま で は 30%、600 万 円 ま で は 20%、
600 万 円 超 に つ い て は 10%の 各 控 除 率 が 適 用 さ れ 、 最 低 控 除 額 が 50 万 円 に 設 定
9)『 消 費 者 物 価 接 続 指 数 総 覧 』 (総 務 省 統 計 局 )に よ る と 、 消 費 者 物 価 指 数 の 前 年 比 は 、 1973 年 で + 11.7%、
1974 年 は + 23.2%で あ り 、 急 激 な 物 価 上 昇 が 生 じ て い る 。
10)基 礎 控 除 の 規 定 は 所 得 税 法 第 八 十 六 条 を 参 照 。
第八十六条(基礎控除)
居住者については、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から三十八万
円を控除する。
配偶者控除の規定は所得税法第八十三条を参照。
第八十三条(配偶者控除)
居住者が控除対象配偶者を有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額
又は山林所得金額から三十八万円(その控除対象配偶者が老人控除対象配偶者である場合には、
四十八万円)を控除する。
扶養控除の規定は所得税法第八十四条を参照。
第八十四条(扶養控除)
居住者が扶養親族を有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山
林所得金額から、その扶養親族一人につき三十八万円(その者が特定扶養親族である場合には六
十三万円とし、その者が老人扶養親族である場合には四十八万円とする。 を控除する。 )
- 13 -
11)
された 。 累 進 税 率 表 に つ い て は 、 最 低 税 率 の 10%と 最 高 税 率 の 75%、 お よ び
税 率 の 段 階 数 の 変 更 は 実 施 さ れ ず 、 最 低 税 率 10%が 適 用 さ れ る 課 税 所 得 の 区 分
12)
を 、 40 万 円 以 下 か ら 60 万 円 以 下 に 引 き 上 げ る こ と に よ り 減 税 が 図 ら れ た 。
翌 年 の 1975 年 に は 、 人 的 控 除 の 改 正 が 実 施 さ れ 、 基 礎 控 除 、 配 偶 者 控 除 、
扶 養 控 除 の す べ て が 24 万 円 か ら 26 万 円 ま で 引 き 上 げ ら れ た 。 こ の 2 度 の 改 正
の 結 果 、 1971 年 か ら 上 昇 し 始 め た 納 税 者 の 所 得 税 負 担 割 合 は 、 1973 年 の 5.5%
か ら 、 1974 年 に 4.6%、 1975 年 に は 4.1%ま で 低 下 し た 。
2 兆円減税の実施により、負担割合は一時的な低下を見せたが、その後は再
び 上 昇 し 始 め た 。 こ れ を 受 け て 1977 年 に は 人 的 控 除 の 改 正 が 行 わ れ 、 基 礎 控
除 、配 偶 者 控 除 、扶 養 控 除 の す べ て が 26 万 円 か ら 29 万 円 ま で 引 き 上 げ ら れ た 。
続 い て 1980 年 に は 給 与 所 得 控 除 が 改 正 さ れ 、 600 万 円 超 1000 万 円 以 下 の 給 与
11)給 与 所 得 控 除 は 所 得 税 法 第 二 十 八 条 の 三 を 参 照 。
第 二 十 八 条 の 三 (給 与 所 得 控


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